OASI-Zが不定期にお送りする「10枚の名盤」シリーズ。4枚目の今回は
1980年に発表された
XTC の4thアルバム
『ブラック・シー』 です。
このアルバムを初めて聴いた時の衝撃は、未だに忘れられません。
NHK-FM、渋谷陽一の「サウンド・ストリート」の新譜紹介で、
「Sgt. Rock」 がオンエアされたのですが、渋谷氏の放送スタイルとして番組の1曲目は
曲名もアーティスト名もインフォメーション無しで、いきなり曲をかける為に、
その曲が終わるまで、誰の?どのバンドの?なんという曲か?不明なまま、
聴く事になります。
ただ、非常にポップなメロディでありながらも、適度にアヴァンギャルド。
様々なアイデアを詰め込んだ、実に私好みの
「ひねくれポップ」 だった
事が、私を引き付けたのです。
1曲目が終わって「XTCのニュー・アルバム」という事が解ったのですが、
名前は知っていても、XTCの過去のアルバムを当時は未聴でしたので(汗)
XTCに対するイメージは正直、何もわかないまま2曲目以降を聴きました。
そして2曲目に
「Respectable Street」 が流れた時には
「これだよ!俺の聴きたかったロックは!!」 と意味も無く叫んでしまいました(笑)。
続く3曲目
「Towers Of London」 、4曲目
「Living Through Another Cuba」 が
終わる頃には「明日、レコード屋に行って買ってこよう」と決意したのです。
30年たった今でも、その時の事を鮮明に思い出すことが出来るのは、
それだけこのアルバムの初期衝動、インパクトが強かったという事に
他なりません。
1980年代初頭、こよなく愛した
プログレ が衰退。替わって登場した
パンク には今一つ馴染めず、お気に入りだった
10.cc も分裂。
話題の
テクノ・ポップ もミニマルなサウンドが魅力的で、興味をそそられた
のですが、それほどのめり込む事は出来ず。
かろうじて
ポリス 、
トーキング・ヘッズ 、
ギャング・オブ・フォー 等のギターが
メインだったり、パンク・パンクしてないバンドに関心を寄せるだけでした。
そんな、ロックに対する個人的閉塞感を一気に、払拭してくれたのが
XTC の
『ブラック・シー』 だったのです。
ビートルズ や
10.cc に通じるメロディ・ラインを持ちながら、ゲート・エコー
処理された
「カン高い」 音のドラムと、
ギャング・オブ・フォー ばりのハード・
エッジな
カッティングギター が、単なるポップ・アルバムには留まらない
「新しい時代のロック」 を印象づけました。
正に、このアルバムは私が当時求めていた音楽の要素を、全て内包して
いたと言えるのですが、それは
「パンク」 という新しい波があったからこそ、
このような新しいサウンドが登場したとも言えるのです。
実際、私自身もニュー・ウェーヴを経験した事でパンク・ロックもテクノ・ポップ
も、聴けるようになったのですから・・・。
このアルバムで当時話題に上がったのが、ドラムの音。今の時代でこそ、
デジタル・エコーで同様の効果を出せるようになったようですが、あの当時は
本当に、画期的な音だったのです。
これは当時、新進気鋭のプロデューサーであった
スティーヴ・リリィホワイト と、
エンジニアの
ヒュー・パジャム の力によるものが大きく、二人はこのアルバムの
少し前に発表された
『ピーター・ガブリエルⅢ』 でも、ノイジーなスネア・ドラムを
聴かせてくれています。
因みにスティーヴ・リリィホワイトは、この後
U2の「WAR」 、
ビッグ・カントリーの 「The Crossing」 といったアルバムでもプロデュースを担当し、ゲート・エコー
処理されたラウドで痛快なドラム音で、一躍トップ・プロデューサーの仲間
入りを果たす事になります。
更に、XTCの音楽が魅力的である理由としては、
アンディ・パートリッジ と
コリン・ムールディング という、二人のソング・ライターが居る事でしょう。
1st~2ndアルバムの頃は、キーボードの
バリー・アンドリュース の個性が強く
コリンの存在は、それほど目立つものではなかったのですが、バリーが脱退した
3rdアルバム
『Drums And Wires』 に収録された
「Making Plans For Nigel」 や、
アコースティックな名曲
「Ten Feet Tall」 、シングル
「Life Begins At The Hop」 といった曲で、コリンの存在が大きくクローズ・アップされたのです。
「ひねりの効いた実験的ポップ」 のアンディと、
「英国伝統の正統派ポップ」 の
コリンの二人が作り出す音楽が、見事なバランス感覚を保ちながら、XTC
サウンドの頂点を極めた作品が、この
『ブラック・シー』 だったと言えます。
二人が偉大なる
「レノン=マッカートニー」 と比較されるのも、納得できる
というものです。
当時のXTCはエネルギッシュなライヴにも定評があり、このアルバムの事を
アンディは
「ライヴの様子を、スナップ・ショットで撮ったようなもの」 と語って
います。
当時のライヴ音源。Living Through Another Cuba~Generals And Majorsの メドレーはレコードの順番とは逆ですが、この疾走感と盛り上がりはハンパねぇ この2曲メドレーのライヴ・ヴァージョンは、リンク先の
MASAさんのブログ でも
紹介されておりますが、このアナログ盤とCDでしか聴けません。
しかし音楽的なピークを次作の
『English Settlement』 で迎えた後、アンディ
の体調不良を理由に、XTCはライヴ活動を停止してしまいます。
そういう意味でも、バンドとして最も脂が乗っていた時期に発表されたのが、
この
『ブラック・シー』 であり、スティーヴ・リリィホワイトとヒュー・パジャムが
加工を加えた事で、
奇跡的なケミストリー を生み出した
傑作 と言えるでしょう。
因みにこの
『ブラック・シー』 、個人的には
「80年代のベスト・アルバム」 に
燦然と輝く作品です。捨て曲など、あろう筈がないっ!。